講座情報

令和4年度「地域未来学」講座25 開催報告

日 時:12月10日(土)14:45~15:45
講 師:邑本 俊亮先生(東北大学 災害科学国際研究所 災害人文社会研究部門 教授)
タイトル:「学び手が伝え手になる~持続可能な災害伝承に向けて~」

心理学の視点から防災について研究している邑本先生に、今年度の最終回もご講義いただきました。

序盤、先生の研究分野である認知心理学についてご紹介いただきました。心理学は人の心を直接読めるわけではないが、人間の心の一般的特徴が分かっていて、それを様々な分野に応用することができる学問であると説明されました。この点を踏まえ、本論に入りました。

前半は災害と心理についてお話しされました。
まず、発災時に人はどう思うのかを、先生の研究のインタビューデータを基に紹介され、発災当時の被災者の感想に触れられました。このインタビューの回答から、人がどのようにリスクを受容していくかについて説明され、実際に避難警報・指示を見聞きした割合や避難率のデータ、避難しなかった理由を提示しながら、人がリスクを過小評価し、行動に移さない点を指摘されました。
災害時の認知バイアス(傾向)には、「正常性バイアス(正常化の偏見)」「楽観主義バイアス」「確証バイアス」「集団同調性バイアス」といった種類があります。これらのバイアスは、日常では心理的安定につながる一方、いざという時には逆効果になるそうです。人間の認知・判断にはバイアスがつきものであることを認識し、それらをいざという時には振り払う心構えを持たなければならないと説明されました。
また、危険を察知する「危険スイッチ」が入る要因として、環境における明らかな異変や、他者からの声掛けという点を挙げられました。
緊急時の認知特性として、情報処理範囲が狭くなる、注意集中による見落としが起こる、熟慮的思考が困難になる、大災害時には家族のことが気になるといった特性があります。それぞれの特性について、具体例や動画を交えて説明され、これらの特性への対策として、津波が来たら各自で逃げるということを表した「津波てんでんこ」の例を示されました。

後半は災害を後世に伝えるためにどうしていくべきかについてお話しされました。
事例として、東北大学の1年生が履修する少人数ゼミ形式の授業を挙げ、様々な領域の教員が行う講義だけでなく、被災地への現場実習やグループワーク、報告会を行う過程について説明されました。講義後の学生の最終レポートのコメントでは、「現場で体験することの重要性」や「震災や教訓を伝えることの必要性と決意」が主に見られたということです。これを受け希望者には、さらに主体的な震災学習をさせた上で、震災を知らない中学生向けに防災教育イベントを開催する取組みを行い、実際にその当時の動画を紹介されました。
終盤、人間の記憶は時間と共に薄れるので、震災も忘れないためには、何度も思い出すことが必要で、一人ひとりが震災を忘れずに語り継ぐことが大事であるとし、講義を終えられました。

災害伝承、防災・減災という点も柱としてきた「地域未来学」らしく、様々な心理状態で生活している人間として、どのように災害と向き合うべきかを再認識する講義でした。