講座情報

令和4年度「地域未来学」講座23 開催報告

日 時:12月6日(火)18:00~19:00
講 師:河内 聡子先生(東北工業大学 総合教育センター 講師)
タイトル:「「クラフト」による持続可能なものづくり・まちづくり」

地域社会について歴史・文化の面から研究されている河内先生に、ご講義いただきました。
今回は「クラフト」という言葉を通して、地域の人と資源を活かした持続可能なものづくり・まちづくりについて考えていくという内容でした。

前半は、現象としての「クラフト」について、様々な「クラフト」を冠した商品や、関連した新聞記事の掲載数などにふれながら、昨今の「クラフト」の捉えられ方について紹介されました。そもそも「クラフト」は、手工芸で物をつくる仕事、複数生産が可能で、機械の力を使ってもなお手作りの暖かさ、豊かさを生かした工芸のことを指す一方、「個性」も感じさせる言葉になっていると解説されました。
その後、気仙沼のブルワリーや、東京での飲料製造等の事例や文献を紹介しながら、「クラフト」の可能性について考察されました。現代において「クラフト」は、「個性」に加え「地域」「物語」「人間味」「持続可能」をキーワードに、地域固有の価値を表現しPRできる、人との繋がりや人の温かみを感じられる、伝統技術による製品の信頼性とデザインの安定性から地域産業としての可能性がある。その背景として、持続可能な社会への転換、地域的な価値の見直し、コロナ禍によって人間関係が変化し、「人間らしい」生活への回帰が求められたことをあげられました。

後半は、地域産業における「クラフト」の実践について、こちらもいくつかの事例をもとに説明されました。
一例として、岩手県大野(現洋野町)の、工業デザイナー・秋岡芳夫氏によって提唱された「一人一芸の里」の理念に基づき、地元の大工と地産の木材による木工製作を進めていった事例を紹介されました。特色として、農閑期の「裏作」として実施することで基幹産業を維持する、技術の継承と刷新、自主的な流通システムを確立するなどの、「コミュニティ生産方式」をあげ、この取り組みを推進した秋岡氏は、「クラフト」について、伝統+新しい技術とシステムの導入、消費者と生産者のコミュニケーションの確立という点を考えていたのではないかと解説されました。また、「人間が再生産可能な素材で道具、用具を創るべき将来の脱石油文明社会に備えての、のぞましい生産システムの開発にクラフト(工芸)産業が期待されている」という秋岡氏の文献での記述にも触れられました。

まとめとして、持続可能な社会の実現に向けて「クラフト」の価値が見直されているおり、その価値とは、地域の人と資源を活かせる、伝統に裏打ちされた技術とデザインなどである。また「クラフト」を活かした「まちづくり」の課題として、伝統を継承しながら、新しい技術とシステム、デザインを取り入れることなどをあげられました。

最近よく聞かれる「クラフト」という言葉本来の意味、またそこからの変化について触れながら、地域社会に活かせる可能性を示された講義でした。​