講座情報

令和4年度「地域未来学」講座15 開催報告

日 時:10月15日(土)13:30~14:30
講 師: 郷古 雅春先生
(宮城大学 事業構想学群大学院事業構想学研究科 副研究科長・教授)
タイトル:「世界農業遺産「大崎耕土」の水管理の知恵と価値」

農業と水の分野を研究されている郷古先生にご講義いただきました。

世界農業遺産として認定されている「大崎耕土」を事例として農業用水の知恵とその価値を学ぶということで、はじめに世界農業遺産の概要や実際の事例について、環境保全や開発等の課題も交えて紹介されました。日本国内には13地域あり、その内、日本の中心的な農業である水田農業について認められている大崎耕土は、日本の農業のど真ん中と考えていると述べられました。

大崎耕土は、東北地方太平洋側特有の「やませ」による冷害、傾斜の急な山間地であるがゆえの渇水、水はけの悪い平地であるため豪雨時には洪水になるといった悪条件に、様々な知恵と工夫を凝らして適応し、豊かな水田農業地帯となっていったそうです。この大崎耕土の評価ポイントとして、水管理基盤や「契約講」による人々のつながり、厳しい自然条件を克服するための屋敷林「居久根」や水田、水路がおりなす豊かな生物多様性があげられます。

自然による課題を解決する工夫として、上流の水を流域農地に取り入れ活用、水の不足する下流域では反復水利用やため池で補給、遊水地による洪水被害の減災を図るなど、地勢に合わせて隧道・潜穴・水路を活用した水管理を挙げられ、その地勢ごとに合わせた事例を紹介していきました。湿地帯については、隧道・潜穴により沼地の水を排水し、新田として利用し、全ての排水が流れ込む蕪栗沼が遊水地となることで、国内最大のマガンの越冬地になったそうです。さらに、現代技術も取り入れながら水管理を高度化させているという点も指摘されました。一例として、排水路下流へのポンプの設置や、洪水被害を軽減する「田んぼダム」という取組みについても紹介されました。

また、模式図を示しながら、地域で連帯しながら農業用水の状態を維持する取り組みについても解説されました。

これらの水管理をベースとして持続可能な農業が営まれ、それにより独特な農村景観(ランドスケープ)や農村文化を生み出したと説明され、一例として屋敷林「居久根」や農産物、農文化などを紹介されました。

講義の最後に、農業・農村のハード面・ソフト面を含め様々な機能について触れられ、農産物・農産食料品を生産して販売するだけでなく、環境保全や社会的・文化的な価値をいかに未来につないでいくか、その基盤である水の管理をいかに次の世代につなげていくか、大崎耕土は、その問いに応えるヒントになるのではないかと示され、講義を終えられました。

伝統的な水管理を、「みんなでやる」という意識の下行ってきた大崎耕土の事例を通じ、持続可能な社会を構築するには、実際は「人」の力や先人の知恵といった部分も重要になるというメッセージが込められていると感じました。