講座情報

令和4年度「地域未来学」講座12 開催報告

日 時:10月1日(土)13:30~14:30
講 師:石井 敏先生(東北工業大学 副学長 建築学部 建築学科 教授)
タイトル:「認知症を支える地域と環境づくり 〜認知症当事者:丹野智文さんの声とともに」

福祉の面から建築計画について研究されている、石井先生にご講義いただきました。

前半は、認知症患者の様子をとらえた写真や、グループホームの事例も紹介しながら、認知症の方を支えるためにどういったことが必要かということで話を展開されました。
認知症の人を取り巻いている全ての環境要素が、その人の症状や暮らしのあり方に関わってくるとのことで、ケア、住環境や暮らしの環境、そして理解してくれる人(社会)のいずれも不可欠で、どの視点から支えるかで見方が変わってくると指摘されました。
そのため、非日常的な空間や生活は認知症患者にとっては困難な環境となり、いかに日常的な空間であるかということが重要であると説明されました。現在は以前と比べ、認知症にある人(当事者)目線での環境づくりが図られていますが、海外では社会全体で考える意識が盛んであるのに対し、日本では、建築に関して「量」的な基準しかなく、「質」についての意識は薄く、あるべき環境づくりが進められていないという現状があります。その現状を踏まえ、「認知症と共に生きる人のための尊厳あるデザインマニフェスト」や「認知症のためのデザインにおけるFleming-Bennettの原則」も紹介しつつ、どのような空間をつくるべきか、どのようなケアを行うべきか、多くの人が意識できる社会にしていきたいと述べられました。

後半は、2月の公開研究会での収録動画から、認知症当事者の丹野智文さんの講演動画を視聴し、当事者としての実体験を聞くことができました。診断当時の様子や、社会復帰への経緯、患者としての現在の苦悩や葛藤、病気になる前のイメージとの違いなど、当事者しか分かり得ない内容で受講された方にとっても貴重な機会となりました。

最後に、認知症の人も社会の一員として暮らしていけるような環境づくりが必要で、当事者視点のまちづくりを考えられる社会にしていくために一人一人ができることを考えられると良いと、まとめられました。

丹野さんのお話の中にあった「失敗しても怒らない環境が、当事者にとっては必要」というキーワードは、先生のお話の中にも出ていた「環境づくり」にも通じる部分でした。また「守らなければならない存在」という意識を見直してほしいというコメントから、社会の意識とのギャップが少なからずあることに気づきました。社会に必要とされる環境とはどういうものなのかを改めて問い直す機会になりました。