講座情報

令和4年度「地域未来学」講座6 開催報告

日 時:8月27日(土)14:45~15:45
講 師:香坂 玲先生(東京大学大学院 農学生命科学研究科 森林科学専攻 教授)
タイトル:「里山・有機農業がもたらす生物多様性の未来:地域資源と地理的表示の保護」

昨年に引き続き、自然資源管理について研究されている香坂先生に、地域の中で取組める生物多様性の保護や有機農業についてご講義いただきました。

前半は、環境配慮や生物多様性の保護のためにどんなことが戦略的に必要か、「地域(エリア)認定」と「産品認証の相乗的活用」という視点から、「ローカル」を主眼に置く意味、そして、「地域表示(GI等)」「有機農業の活用」による効果などをお話頂きました。
ローカルに主眼を置くことで、産品の文化的(歴史側面)、遺伝的側面と生態系との関連性、資源分配、文化的側面へのアプローチなどに効果をあげられます。これらの活用手法の一つとして、ストーリーテリング手法の重要性が示され「伝えたい思い、コンセプト想起のための印象的体験談やエピソードなどを物語として産品に載せて伝えること」でブランド構築や売り上げの促進に効果があり、コロナ下での手法としても活用されていることが紹介されました。
この手法は「地域と産品の歴史・文化、環境特性を伝えることによって受け手に共感を与え、語り手とのつなぐ行為」にもつながり、より地域産品への関心が高まり売り上げが伸びることで、地域の資源の価値を高め、相乗効果として資源の育成や保護につながるそうです。事例として、宮城県の雄勝石などが紹介され、ドラマ性や物語として人に伝えることが産品を知るきっかけであることを伝えられました。

次に、地域産品の保護の方法として、地理的表示(GI)を活用することで地域文化や歴史と共に、知識や技術を包含した形での保護が可能であり、その上で加工や生産、市場への流通につながる仕組みが紹介されました。GIを取ることで、生産者の意識向上や国による規制があることで特産品の保護に役立つことから安心して知識の共有ができる点などの効果が期待でき、知識を共有することで、地域資源を維持し、更に人材育成、種の保全というメリットもあり、さらに観光とのマッチングが効果的であるという指摘がなされました。

後半は有機農業とヨーロッパの事例から生物多様性の保護の視点、資源保全について解説されました。日本とヨーロッパでは制度の違いがあり、ヨーロッパがやや促進材料が豊富ではありますが、日本の政策でも「みどりの食糧システム戦略」として、進められていることが紹介されました。この戦略からは2050年まで目標が示され、CO2のゼロエミッション科、化学農薬や化学肥料の低減化、侑農業面積のシェア拡大などが盛り込まれていることが紹介されました。

まとめとして「政策への示唆」という視点から、川上・川下・消費への総合的が重要であるとし、総合的なアプローチ、地域のネットワーク、推進するコーディネーターなどの雇用が必要とされ、地理的表示の活用、次世代型の有機農業政策の推進のためには行政も含めた取り組みが必要であると伝えられました。

講義を通じ、地域資源の保護や生物多様性の保護という視点においては、資源(どのように保護・維持をするか)と人の生活(経済活動)の関係から、商品品質を少し丁寧に見てみるなど、日々の暮らしの中で、少しでも意識を向ける努力が小さな一歩になるという学びを得ることができました。