地域未来構築事業

地域未来学

令和3年度「地域未来学」講座9 開催報告

日時
8月7日(土)13:30~14:30
講師
石田 秀輝 先生(東北大学名誉教授、合同会社地球村研究室 代表、(一社)サステナブル経営推進機構 理事長)
タイトル
「イノベーションはライフスタイルが創る!!」

現在私達が置かれている環境問題の把握から始まり、未来の子供達にどのようなバトンを手渡さなければいけないかについて、現状のデータを示しながら、循環型社会実現への考え方が語られました。

まず、サスティナブルな社会創成のために今何が問題なのか。
現代社会は、地球環境の劣化と資本主義の劣化という2つの限界を迎えているとし、増大する地球環境問題について、気候変動、生物多様性、海洋プラスチックなど喫緊の課題を取り上げながら、私達の置かれている今の地球についてのデータや知見が示されました。
海洋プラスチックについては残留汚染物質が課題であること、また、生物多様性については大量絶滅によって特に昆虫は危機的状況であり、人類の生存にも直結する課題であることが分かりました。

では、どのようにしたら私達は暮らしを変えていけるのか。 日本ではイノベーションという言葉がよく使われ、それはエコ家電やエコカーなどの技術による置き換えが一般的でした。しかしそうした技術改善は、必ずしも環境配慮の促進、環境負荷の低減という側面には効果が無く、むしろエコ商材が消費の免罪符となっていることが示されました。(エコ・ジレンマ)
こうした循環しない社会から脱却するには、思考の足場の大きな変更が必要であり、それはバックキャスト思考の活用です。過去・現在までのデータから未来を導き出すフォアキャスト思考とは真逆の考え方で、私達が身につけている思考から一度離れ、制約を受け入れながら、課題への解を自然や、人間の経験豊かな技や知恵工夫を活かした暮らしの中に求めてみる、そして、改めて制約を理解した上で未来の姿を描き出す考え方です。
私達は現在、テクノロジーや物質に頼った依存型の社会を形成していますが、環境負荷を減らす社会とは自立型の社会です。この依存型と自立型の隙間を埋めるためには、やはりバックキャスト思考が必要です。この隙間は、ちょっとした不自由さや不便さ(石田先生は喜ばしい制約と表現)を個人やコミュニティの智慧、知識、技で乗り越えることで埋められ、その結果愛着や達成感、充実感のある心豊かな暮らしを生み、技術や製品に頼らない社会へ移行することが出来ると述べられました。

最後に、そのような社会への移行は本当に可能なのかについても言及がありました。 私達はコロナ禍において、ライフスタイルの変化を迫られましたが、その中で家族や生活の在り方、社会のあり方など多くの気づきを得ました。
このことがちょっとした不自由さを乗り越え、知恵や技によって乗り越えた結果でもあり、アフターコロナのイノベーションにもなりえるとの示唆が得られました。
また、2020年の日本の温室効果ガス排出量は30%削減され、これは2030年の日本の削減目標である-26%に匹敵します。我慢という制約ではありましたが、我々の意思で行動変容を起こせる希望も見えてきたのです。
社会を変えるイノベーションはまさに私達の暮らしの中にあるということ、そしてそのためには制約としての環境問題をしっかりと受け止め、バックキャスト思考を取り入れて未来を描くこと、希望は私達の暮らしにこそあると締めくくられました。

令和3年度「地域未来学」講座9 開催報告
令和3年度「地域未来学」講座9 開催報告

(参考書籍)

  1. 石田秀輝・古川柳蔵(2014)『地下資源文明から生命文明へ』東北大学出版会
  2. 石田秀輝・古川柳蔵(2018)『バックキャスト思考』ワニプラス
  3. 石田秀輝(2015)『光り輝く未来が沖永良部島にあった』ワニブックス
  4. 石田秀輝(2009)『自然に学ぶ粋なテクノロジー』化学同人
  5. Emile H. Ishida・Ryuzo Furukawa (2013) 『Nature Technology』 Springer
  6. 石田秀輝(2021)『危機の時代こそ心豊かに暮らしたい』KKロングセラーズ